調剤薬局の仕事

日本の医療費は年々上昇傾向

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利便性が重視された医療

利用者のニーズを重視した医療は確かに流行ります。しかし本当にそれを重視していていいのか?という視点で考えてみます。日本の医療費は年々上昇していますが、どれくらいの人がこの状況を問題視しているのでしょうね。

確かにビジネスにおいて(特にサービス業にとって)、利用者側の利便性を追求するということは大切なことでもあります。とはいっても、これはあくまで経営者視点の話であって現場の意見(つまり医療人)としての意見とは少し異なるような気がします。

医療の世界においても利便性を優先すべきなのか?という話になるのですが…

薬局業務の中で多くの人と接していると、必ず一定の割合で「自分がほしい薬だけもらえればいい」「希望する治療だけしてもらえればいい」と思っている人たちと出会います。それも、決して少ない割合ではありません。ですから、先日も書いた通りコンビニクリニックが流行る傾向にはあります。私は薬剤師の免許しか持っていませんので、診察に関することは一切わかりません。ですからこれは調剤薬局の視点から見た話だと思ってください。

そもそも個人のクリニック(大きな病院以外だと思ってください)というのは、結局はビジネスのために開業しています。そのため、顧客確保をしなければいけないという概念が当然ながらあります。ですから…

本当はダメなんだけど、これを言っちゃうと客離れするかもしれないからとりあえず黙って相手の要望に応えておこう」

という気持ちはきっとあるんだと思います。これはビジネスである以上仕方のないことですし、経営視点からすれば正論なのかもしれませんが…。

しかし、健康保険の乱用は結果として医療費を高騰させてしまいます。そのため、いわれるがままに保険診療・保険調剤を行うことは避けるべきだと私は考えます。適正使用について国民全員が意識改革をすべきですよ。

以下にいくつか例を書き出してみました。このような使い方はどうでしょう?皆さんも一度考えてみてください。

これって保険を使っていいの?

  • 今度旅行するので念のために風邪薬を処方してください。
  • 子供の虫刺されにも使える軟膏を(私に)処方してください。
  • 他の家族がシップを使うので、大目に処方してください。
  • 薬をなくしたのでもう一度処方してください。

この辺りは調剤薬局でもよく聞く話です。

ですが、知っていましたか?もしこれらを保険診療で行っているとするならば、厳密にはアウトです。なので、本来なら控えるべきなんですよね。希望するなら自費診療でもらいましょう。

最近は保険に対する考えが甘い人が多い気がします。このままでは医療費高騰が止まらずに財政がどんどん圧迫されて、さらに健康保険料や税金が上がっていきますよ?

予備のために保険で処方してもらう

これは前提として「今は健康だけど念のために薬がほしい」という場合の話です。いわゆる頓服処方とは別物ですので、勘違いされないでくださいね。

さて、健康保険ってそもそもどんな時に使えるのでしょうか?なにか事故が起こったから使えるんですよ。わかりやすい例でいうと、自動車保険を考えてください。事故やトラブルがないのに保険金の請求ができますか?

「今度旅行するので念のために運転席のドアを1枚ください。今はきれいですけど、事故が起こった時に困るので。」

…自動車保険の会社に、こんなこと言いますか?言えるんですか?

自動車保険は「自動車」に何かトラブルがあったから保険対応ができるんです。健康保険だって同じですよ。「健康」に何か問題があったから保険対応ができるんです。このことを分かっていない人が多いと感じますね。

自分に処方された薬を別の人へ譲る

個人に対して処方された薬を別の人に譲ることは違法でにあたります。これは、たとえ家族間であってもです。(薬機法第二十四条に明記されています)

生活保護の方が全額公費負担(つまり窓口負担は0円)で薬を処方してもらい、他人へ譲って小遣い稼ぎをする。。。といったケースが稀にみられるようです。個人間で処方された薬の売買をしてはいけません。処方された薬は…

『買わない!売らない!譲らない!』

このことをぜひ覚えておいてください。薬の効果には個人差があります。万人受けする薬というものはありません。もしもあなたが譲った薬を使って、相手の人に何か副作用が出たとしても、責任が取れませんよね?危険ですのでやめましょう。

「飲み薬じゃなければ大丈夫でしょ」…と思われた方がいらっしゃったら、すぐに考えを改めてください。湿布だって使用すると危険な人はいるんですよ。例えば妊婦さんが湿布を使うと、場合によっては胎児に影響が出ることもありますからね。薬のリスクをあなたは本当に理解していますか?

薬をなくしたのもう一度処方してほしい

これはもう完全に自己責任ですよね?治療するために医師から一定期間分の薬が健康保険で現物支給されたはずです。自己の不注意が原因なのですから、まずは反省してください。そのうえで自費で薬を再処方してもらいましょう。これを保険で対応していては、そのうち嘘をついて薬を複数回もらおうとする人達が出てきます。薬物乱用の観点からも保険を使うべきではありません。

健康保険は正しく使いましょう

私は気軽に保険で薬をもらうなと言いたいわけではありません。ただ、保険の意味を知らないで当然のように健康保険を使ってることが良くないと言いたいんです。

お客様に言われてルールを破った診察、処方、調剤を行ったとしても、責任を受けるのは大抵の場合が医療者側です。頼んだ側に責任を求められることはほぼありません。ですからこの常識が、一般にはあまり浸透していないのでしょう。

便利さに慣れてくると、人はだんだんそれを当たり前だと思いはじめ、感謝することを忘れる傾向にあります。そもそも医療費は10割負担が当たり前なんですよ。それが保険証を見せることで1~3割の支払いに減額してもらってるだけですからね。それなのに「10割だと高い」「保険証がないと高い」といった逆転の発想になっている人ばかりな気がします。医療の単価は高くて当たり前です。扱っているものが「健康=命」ですから。

私は利便性よりも安全性を高めた医療の方が現在の日本にとっては必要だと感じます。必要な医療を本当に必要な人へ確実に届けることの方が大切です。

窓口負担以外の医療費について

窓口で支払う金額は先ほど書いた通り、1~3割が一般的だと思います。そして、その金額を支払った時点で今回の医療費は払い終わったと思っている人がほとんどではないでしょうか?実は医療費の支払いが完結するのは最短でも2か月後です。それまでの期間は病院やクリニック、薬局が建替えているだけなんですよね。

このときにもし受給者資格を喪失していた事が発覚した場合、数か月後にもれなく本人へ残った医療費の全額請求が来ます。しかも医療機関からではなく保険者(社保や国保など)から直接請求が来ますので、保険の仕組みを知らないとびっくりされるかもしれません。転職・退職後の受診の際は有効期限に注意しましょう。

社会保険の場合は退職日までが有効期限ですよ!

窓口負担以外の残り7~9割の医療費については、医療界に関わりの薄い方にとっては完全に水面下で動いていますよね。知らない人も多いと思われるこの医療費の動きについて、そのうち伝えていきたいと思います。







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