今回は久しぶりに薬剤師らしいことを書いてみようと思います。最近は個別指導の対策などであまり現場を見ていなかったのですが、本日現場薬剤師の投薬を見ていて少し気になることがありました。それがこの一言…
「この薬は食前に飲むように処方されていますけど、別に食後でもいいですよ」
おいおいおいΣ(゚Д゚)まてまてまてー!!!
いや…ね?勝手に服用時点変えて説明しちゃダメでしょ。というか、そもそもなんでこの薬が食前服用になってるのか理由わかってますか?ただ添付文書(薬の説明書)にそう書いてあるからってのは理由にならないでしょ!
…という事件が起こったんですね😅
このディレグラ配合錠という薬は、発売されてからもう数年は経つ薬なのですが、 あまり食前服用の理由について書かれているものがないんですよね。メーカーに聞いても曖昧な答えしか返ってこないようで、私の知っている限りではこの理由を明記しているものはなかったと思います。ですので、ここでは私なりに考えている「ディレグラ配合錠が食前服用とされている理由」というものを書いていこうと思います。
ディレグラ配合錠は鼻炎の薬
秋になったためか、最近どうやら花粉症の方たちがよく訪れるようになったようです。うちの薬局では、花粉症の薬といえば主に「ルパフィン錠」や「ビラノア錠」といった割と新しい薬が頻繁に処方されています。これらの薬でも十分に治療効果はあるのですが、症状の一つとして鼻閉を訴える方の場合だと「ディレグラ配合錠」という薬が処方されてます。この薬は抗ヒスタミン剤のカテゴリーの中でもちょっと特殊な薬なんですよね。というのも…
適応症は「アレルギー性鼻炎」のみ、さらに使用する条件として「中程度の鼻閉を伴うもの」であり、且つ、使用期間は「原則として2週間まで」とされています。なので一般的な花粉症対策のように1シーズン飲み続ける、といった服用方法ではないんですね。そして、肝心の服用方法については「1日2回朝夕食前」とされています。
ここで多くの人が「えっ?なんで食前なの?食後じゃダメなの?」となります。一般の方はもちろんのこと、薬剤師ですらこうなります。「寝る前」とかなら理解できるんですよ、「眠気が出るからかな」とか考えられますから。(花粉症の薬はたいてい眠気が出ますよね、副作用として仕方ないのですが…😞)
ちなみに抗ヒスタミン剤のこの副作用を逆手にとって「ドリエル」という睡眠障害改善薬が発売されました。そのくらい花粉症の薬は眠気がでやすいってことですね。
さて…この眠気についてですが、実はディレグラではほとんど出ません。というか、むしろ不眠の副作用があります。このことからも一般的な抗ヒスタミン剤とは少し異なるということがわかると思います。ではなぜこんなに特別扱いなのかというと、このディレグラ配合錠に含まれている「プソイドエフェドリン」という成分がすべての原因なんですよね。
プソイドエフェドリンについて
このプソイドエフェドリンですが、カテゴリーとしてはアルカロイドという成分に分類されます。一般の方のために一応簡単に説明すると「量や使い方を間違えると副作用出やすいですよ~、ちょっと危険ですよ~」というものです。このアルカロイドについては薬剤師であれば全員習っているはずですが、pHが低い状態ではイオン化してしまうという特徴があります。ただ、これをあまり覚えていない人が多い気がするんですよねぇ…😅
そして、人間の胃は空腹時だとpHが低くなっています。つまり、この状態でプソイドエフェドリンを服用すれば胃内でイオン化するんですね。イオン化するとどうなるか…小腸からの吸収が穏やかになります。つまり、急激な血中濃度の上昇が抑えられますのでより安全に服用することができます。誰だって副作用は起こしたくないですよね。これが食前服用とされている理由ではないかと私は考えています。
食後に飲むとどうなる?
食事をとると胃内pHは上昇します。そのため、イオン化せずにそのままの形態で存在するアルカロイドの割合が多くなります。この場合、小腸での吸収速度が速くなりますよね。確かに早く吸収されれば効果が早く出るとも考えられます。しかしそれと同時に、急激な吸収により副作用や中毒の発現する可能性も高くなってしまいます。これでは薬を安全に服用していただくという薬剤師の使命に背くことになりますから、リスクを考えずに「別に食後でもいいですよ」と軽く説明すべきではないと思いますね。
たとえメーカーがわからないと言っても、薬剤師は薬物動態学というものを習ってきています。その知識を使って自分の頭で考えるべきではないかという一件でした。薬物動態学は薬剤師が薬剤師たる所以ともいうべき知識ですから、これを蔑ろにしてはいけません。医師は学ばない、薬剤師の専門学です。
薬剤師はもっと積極的に専門的知識を活かしていくべきではないでしょうか。